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【国民を救えない国家】

 北朝鮮という国に拉致された8件11人の行方不明者。政府・外務省は、何故に徹底究明と捜索に動かないのか。新聞などは拉致「疑惑」などと表現している。「10人ばかりの行方不明者のために外交関係が悪化することは好ましくない」と言ったのは、外務省高官と秘書給与疑惑で議員辞職に追い込まれた辻本清美社民党元政審会長である。私の知人の肉親である女性が外国で殺害され、容疑者が逮捕された。殺害された女性の姉二人が事件の全容解明を求めて外務大臣に親書をしたためた。私が親書を伝達した。以来三ヶ月以上にもなるが、外相と外務省からは何の反応もない。ヨーロッパ北部の国の男性と結婚し、その国に帰化した日本女性がいる。その夫に先立たれ、外地のことゆえ身寄りとてあるはずもなく、日本に帰りたいと願い出たが、親身に相談に乗ってもらえなかったという。あまりに官僚的な対応に心うちひしがれ、今は通訳ガイドとして細々と生活している。

 たった一人の日本人も救えない日本という国は、いったい何という国であろうか。イスラエルとパレスチナの血で血に報いる対決と抗争。いろいろな言い方や見方があろうが、少なくとも害を受けた自国民のために決起していることには間違いはない。北朝鮮に拉致された日本人をどうするのか。政府・外務省は毅然たる姿勢で臨むべきではないか。平成12年の日朝赤十字会談での際、北朝鮮側は昭和20年以前に行方不明となった朝鮮人108人+151人、計259人の安否について日本側に調査を迫ったという。このことは平成14年4月24日付産経新聞に報じられた。私は日々全紙の関心ある記事をスクラップしているが、そのような要求があったことを外務省と日赤が発表した記事を見たことがない。植民地統治の事件と平和時の拉致とは次元が異なる質のものである。産経新聞が報じているように、明らかに「拉致相殺」を狙ったものである。少なくとも何人かは生きている可能性のある拉致された日本人のために断固たる国権の発動を求めたい。


【有事関連三法案と戦争】

 第154国会の平成14年4月、武力攻撃事態法など有事関連三法案が提出された。武力攻撃事態も有事も、自衛隊法七六条によって自衛隊が武力を行使することである。つまり「交戦」である。何が「武力攻撃事態」「有事」と言うのだ。「戦争」そのものを言葉のまやかしでごまかしているに過ぎない。要するに「戦時法」なのである。戦争というのは国家と国民が極限の状況に置かれることを言う。まやかしではなく真相・真実を国民に明確にする責任が政府・国会にはあるはずだ。

 そういえば、この国は「敗戦」を「終戦」と言い慣わし、自衛隊は軍隊ではないと言い続けて来た。靖国神社参拝を「公人」か「私人」かなどとバカげた意図をデッチあげた。憲法の解釈も、歴代政権が、その時その時の政局や政治状況に揺れ動き、歪められて来た。旧ソ連時代に爆撃機が領空を侵犯しても、明らかに北朝鮮の「不審船」や中国の「調査船」が我が物顔に領海を走り回っても、北朝鮮のミサイルが本土上空を飛び越えても、手をこまねいている政府。またのほほんとして危機意識も持たない国民。長く国旗も国歌も持とうとしなかった国民。戦没者の慰霊祭には遺族しか参集しない国。いったい日本という国家と国民はどうなっているのだ。グローバリゼーションによってヒト・モノ・カネの動きに国境がなくなりつつあるとはいえ、国家として国民としてのアイデンティティをどこに求めようとしているのか。我々は日本人なのか、異星人なのか。


【国民が負う事後対応のツケ】
 我が国がアジアで最初のBSE発生国となったことは、まことに不幸なことであり、残念なことである。折柄の不況と相まって国民の消費生活経済に少なからぬ甚大な悪影響を及ぼしていることを深刻かつ重大に受け止めている。何よりも感染源を究明し、感染経路を追求し、食品の安全・安心のために監視安全体制を徹底的に整備することが求められている。そして大きく地に堕ちた食と農への不信を払拭することに全力を挙げなければならない。まして13年度二千億円余、14年度予算も二千億円超、計四千億円超の国費、つまりは国民の血税を注ぎ込むことになったことは、行政トップの一翼に列する者として率直にお詫びしなければならない。不況とリストラに呻吟する勤労者、就職難に喘ぐ新卒者、不安におののく消費者・母親、やり場のない怒りをどこにもぶっつけようもなく農政不信に陥っている農家、その傷みを自分のものとして事態の解決に全力を尽くさなければならないと思っている。

 BSEの病原体は異常なプリオンが牛の脳・脊髄・眼・小腸遠位部に蓄積されることによるものであることは世界共通の認識である。そしてその運び屋は「肉骨粉」であることもほぼ共通の認識である。86年、イギリスで最初の狂牛病が発生し、分かっているだけでも十八万頭超の牛が狂牛病にかかった。狂牛病はドーバーを越え、ヨーロッパを席捲し、インド洋を経て日本に侵入した。9月21日に最初の一頭がBSEと断定され、その後二頭が検査陽性と認定され、疑似患畜とともに屠殺処分された。東大の吉川教授によれば、我が国の肉骨粉の輸入量と牛への給餌量から試算すれば、我が国での狂牛病の発生は7〜10頭ではなかろうかと推論している。我が国の牛飼育数450万頭余のうちの一ケタ台である。しかも屠畜場・食肉センターでは全頭BSE検査により、まったく安全な牛肉しか店頭に出回らない仕組みを構築している。

 私は14年2月初め、OIE(国際獣疫事務局)、LBA(英国獣医研究所)、WHO(世界保健機構)を訪ね、専門家と意見を交換した。その際、彼らは次のように語った。「日本がBSE発生国となったことは、まことに不幸なことだと思う。しかし日本がBSEの透明国となったことで、不明な点の多いBSEの解明に大いに貢献してくれるものと期待している」、また「我々が十年以上もかかって為し得たBSE対策を、日本は実に短期間の間にやり遂げた」との評価もいただいた。

 BSE対策本部長として私は、学識経験者で構成するBSE調査検討会を全て公開とし、事務方には要求された全ての資料を開示するよう指示した。そして肉骨粉の牛への飼料へ給餌することを法律で禁止すべしという少数意見があったにもかかわらず、「自粛」にとどめたことは「重大な失政」であると断定された。また日本は狂牛病が発生する危険度三のEUステータス評価を拒否したことは「政策判断の過ち」と強い指摘を受けた。農水省では厳しい指弾を率直かつ謙虚に受け止めている。時系列で言えば、たとえ元職者や前任者の時点であったとしても、行政の一貫性の観点から責任は免れないからである。

 それにしても、危機意識の希薄さ、危機管理マニュアルのお粗末さに慄然とせざるを得ない。最初のBSEの疑いの出た農場で、家畜共済の獣医師は起立不能状態の牛を屠殺すべしとして屠畜場に送り込んだ。ところが屠畜場の食肉衛生検査師である獣医師はBSEを疑わず敗血症と診断し、念のため脳などの危険部位を除き、その他は通常のレンダリングに回したのである。それが平成13年の8月6日。狂牛病の疑いがあると私に報告があったのは9月10日であった。初診といい、一ヶ月も経過していたことといい、いったい何をしていたのかと言いたくなる。その後の全頭検査も、在庫牛肉の隔離事業も検品も、あってはならない偽装牛肉や表示のごまかしなど、全て事後対策であった。事柄の特質上、事後対策とならざるを得なかったことはやむを得ない。しかし国民の生命と財産に関与する政治と行政、司法は、常に危機意識を失わず、緊張感をもって任に当たらなければならないということである。


【危機意識の欠如】
 日本海沿岸の二人の知事に聞いた。拉致事件が続発し、不審船が横行している日本海。日常的な監視体制はゼロであるという。警察や司法の手に及ばなければ、自警団を組織してでも警戒に当たるべきではないかと申し上げた。また長い海岸線と三千を越える漁港を持つ日本である。万一を考え、漁港に入出港する漁船ですら臨検することも必要ではないか。洋上で要注意国から漁船を乗っ取られ、脅され、何気なく帰港することも確率ゼロとは言えないはずである。

 農水省では根室漁港にカニを水揚げする密漁ロシア船を厳しく取り締まることにした。途端にカニの値段が高騰した。そして今度は韓国経由でカニが輸入されているという。儲かりさえすれば何をしてもよいのか。中国に対してネギなど三品目に対して暫定セーフガードを発動したが、第一回の関税割り当てに群がった商社は、何と338社もあった。輸入制限措置の相手国である中国は、「中国に責があるわけではない。中国に来て農産物を買い漁るのは日本の商社である。輸入制限セーフガードは中国相手ではなく、日本の商社であり、結局は日本人同士の問題ではないか」とうそぶく。

 偽装牛肉・豚肉・鳥肉、表示の偽り。売れればよい、カネになればよい。組織的、会社ぐるみで、越えてはならない垣根を、いとも簡単に飛び越えてしまう。商売道はどこへ行ったのか。こんな国であってよいのか。セクハラと言われようとも、あえて言うならば、日本は巨大なノーズロ国家ではないのか。我が身に及ぶ危険や国権の侵害に対して、これほどノー天気な国が世界のどこにあろうか。職務柄、世界各国に出張する。いずれの国も日本に対する期待は大きい。しかし、その期待のいずれもがカネ目に対する期待である。そのカネ目に対し無分別に、歯止めもなく、乗っかる企業。多くの預金者、取引業者に多大な損害を与えた「みずほ銀行」。そこには危機意識もなければ、危機管理もなく、顧客に対してひれ伏す姿勢もない。

 厳しい批判・糾弾に晒されている農水省ではあるが、どこかの役所のように、大臣と副大臣と政務官と、そして役人と、この間に不協和音があってはならないと、心を砕いている。未曾有の危機に直面した時こそ、一致結束、心を一つにして、事態の収拾、問題の解決に邁進する。国民の「食と農の再生」のために、国民、消費者、生産者に、お詫びしつつ、全力を尽くすことこそが、農林水産行政の責務であると奮励している。  
 


 

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